上野塾頭の教育論 4

上野

子供の学力はどのようにして形作られるのでしょう。実は、次の数式で学力は表すことができます。

学力=素質×環境×学習量

学力は掛け算で表わされます。掛け算ですので、どこかが0でしたら全体が0になってしまいます。例えば、どんなに素質のある子供が素晴らしい環境(例えば優秀な家庭教師、優れた教材)を与えられたとしても、勉強時間が0では学力の向上はありません。

素質は厳然として存在するのは確かなのですが、誰も見ることも計ることもできません。大袈裟に言えば「神の領域」です。それを自慢することも嘆くことも、意味はありません。

そこで、ここでは環境と学習量についてお話します。

環境というと「勉強部屋」「塾」「家庭教師」「教材」などが思い浮かぶと思いますが、そうした物的条件に関しては今の子供たちは総体的に言って充分恵まれていると言ってもいいでしょう。ここで皆さんにお伝えしたいのは精神的な環境についてです。キーワードは「プレッシャー」です。

受験生を例にお話します。

受験直前になると、それまで勉強していなかった子供でも勉強します。なぜでしょうか。そう、焦るからです。どんな悠長に構えていた子でも、やはり試験直前というのは焦ります。焦る理由も分かっています。それまで勉強していなかったことを自覚しているからです。今までサボってきたということが分かるから焦ります。ですが、思ったようには成果が出ません。ますます焦るという悪循環に陥ることが大半です。

その理由は…。

人は焦ったり緊張したりすると、脳にベータ波という防御波が出ることが知られています。逆にリラックスしていると、アルファ波という受容波と呼ばれている脳波が出ます。このアルファ波が出ている間は、人間の脳というのは情報を吸収する力が大変高くなります。ベータ波は脳に入ってくる情報をシャットアウトしようとします。理由は簡単です。人間も動物だということです。

その昔、人間がまだ動物だった頃、外敵から身を守るための能力として何が必要だったかと言いますと、人間はライオンやトラと違って体に武器を持っていませんので、いかに回りの情報を早く察知して逃げるかという情報力だったのです。ところが、様々な情報を得ようとアンテナを広げすぎると、最も重要な情報、敵が接近してくる気配を見逃すことがあります。そこで脳が自動的に不必要な情報をシャットアウトするのです。そして、外敵に関することだけに集中しようとします。その時に脳はベータ波を出します。その名残りが今の我々にもあって、緊張したり、焦ったりすると脳そのものが多くの情報を受け付けないようになってしまうのです。

皆さんも、普段だったら簡単に答えられることが思わず答えられなくなることがあるはずです。友達同士では平気で話せることが、朝礼台の上で全校生徒を前にすると緊張して頭が真っ白になるようなことが。

勉強も同じです。焦って勉強すると、学習内容が頭に入ってこないということがあります。単語を何度書いても覚えられない。脳がベータ波を出すとそうなってしまいます。それに対して、リラックスしているとアルファ波が出ますので、どんどん吸収できます。そういう状態で勉強した方が、はるかに学習効果が上がります。リラックスして1時間勉強することは、焦って、つまり受験直前に勉強する10時間に相当します。

これは受験勉強に限らず、普段の学習についても言えます。子供たちは日々の生活の中で様々なプレッシャーを感じています。「成績が下がったら叱られる」というのがその代表例です。ご両親が知らず知らずのうちにプレッシャーをかけ、子供たちに無用の焦りを与えていることがあるのです。また、友人関係で悩んで勉強に悪影響を与えることも少なくありません。子供たちがリラックスして学習できる環境を与えることが、我々大人には求められているのです。