上野塾頭の教育論 2

上野

学習意欲を持たせるにはどうするか。人の行動を規制するのは感情(意欲)である。そして、その意欲を刺激するのは、逆説的だが、「行動」である。

例えば、温泉宿で誘われて、しぶしぶ始めた卓球にいつしか熱中し、汗だくになったという経験はないだろうか。また、受験生の頃、勉強が調子に乗り、寝るのが惜しく、気が付けば空が白んでいたということを懐かしく思い出す人もいるに違いない。人は、行動によって意欲を自家発電するシステムを体内に持っているのである。

では、最初の行動に向かわせる「きっかけ」、つまり温泉宿の卓球台をどうやって用意するか。それには、人間が持っているもう一つの性質を利用すればよい。人は、「形」に化学反応する性質をも持っている。例えば、生徒に対して普段は乱暴な言葉遣いをする教師も、朝礼台の上では「皆さん…です」と、丁寧語になる。また、おとなしかった子がキャプテンになった途端、意外なリーダーシップを発揮する。こうしたことは、日常、ごく普通に見られる化学反応である。

学習意欲を持たせるためには、まず、子供が現在無意識のうちに作っている心の中の形を壊すことから始める。私たちは塾生に「次は順位を30番上げよう」「90点以上取ろう」と、高い目標を与え、絶対取れると何度も声を掛ける。それは、子供の中にある「無理だ」という「形」を壊すためである。人は、自ら作った限界を超える成果を為しうることはできない。

 次に必要なことは学習計画表である。1週間の学習を自分で「形」に表すことで、子供は自らを「形」に合わせて反応し、変化を始める。もちろん、それには親の協力と助言は不可欠である。

こうして、ひとたび体内のエネルギーに点火した子供たちは、短期間で自らが驚くほどの成長を見せることになる。

社会は素質を評価などしない。感動もしない。生まれ持った素質を、自らの手で向上させようと努力する者だけを称え、求め、評価する。それは、時代が如何に移り変わろうとも、変ることなく人間が持つ価値観である。